こんにちは。メディカル翻訳者&メディカルライターの山名文乃です。
医薬翻訳でいつも不思議に思うのは「理由」がない学習者さん、未経験者さんが圧倒的に多いことです。
ここでいう理由とは、自分が「なりたい」と思う主観的な理由ではなく、発注側・採用側が「是非この人にお願いしたい」と思う客観的な理由です。
たとえば、会計事務所に勤務している方がいたとします。単純に考えると、勤務を続けながら金融方面の翻訳ができるように可能性を探っていくほうが良さそうな気がします。でも何故か「医薬翻訳者になりたい!」とスクールの門を叩くケース、決して少なくはありません。
あるいは商社に派遣就業している方がいたとします。貿易英文事務など英語関係の仕事から翻訳の仕事につながるようにステップアップしたほうが効果的に思えます。でも「最初の頃よりも上達していますよ」と勧められるがままにメディカルクラスの初級から中級、そして上級へと学習を続けてしまうケース、これまた少なくありません。
医療系の有資格者だって安泰とは言えません。病棟看護師さんや調剤薬剤師さん、検査技師さんなども転身には苦労されています。
何がネックなのでしょう。どうすればよいのでしょうか。
多くの人は既に鼻がきくフィールドがありながら、そこでは勝負せず、未踏の勝手が分からない場所に心惹かれてしまいます。順当に考えれば、経験がある分野で仕事の幅を拡げていったほうが着実です。それでも、どうしても未知の領域に踏み込みたいのであれば、まずはその世界の一員になることを考えてはいかがでしょう。同じ世界を知る仲間として見てもらえる自分になることを最優先にしてはいかがでしょうか。おそらく皆さんが想像する以上に効果のあるやり方だと思います。
医薬翻訳の仕事は、殆どが製薬企業やCRO、医療機器メーカーから発注されます。ですから一度でもそういった企業での勤務歴があれば少しは違ってくる可能性があります。
この話をすると、殆どの方は「いまは無理です」と言います。子育てや介護があるので時間がない、という方のほうが多いでしょう。もちろん無理を推奨しているわけではありません。かといってマイペースに学習を続けて時間ばかりが経過してしまうのも残念なことです。突き抜けた実力があれば問題ないのでしょうが、就業経験のない未経験者のままでは門前払いになる確率が高い。この事実を受け入れた上で身の処し方を考える必要があります。どうすれば「この人なら」と思ってもらえるか、というところを積み上げ、分厚い壁を突破しなくてはなりません。
先日のセミナーでは、プロ翻訳者になれるのは学習者1000人に1~2人だと言われていました。医薬翻訳者を目指す1000人の中には薬学部卒どころかDrもPhDも入ってくるでしょう。
コロナ禍のいま、在宅仕事に興味を持ち、なかでも需要が安定していると言われる医薬分野に注目している人も多いでしょう。魅惑的な誘い文句に惹かれてスクールの講座を検討している方も大勢いるようです。でも、ちょっと考えて欲しいのです。あなたに「理由」はありますか。針に糸を通そうとしているのか、ラクダを通そうとはしていないか。
ひょっとしたら、いま居るその場所で工夫をしていったほうが幸せな未来が待っているかもしれないのです。思い切って挑んだ結果、別天地でも成功できるかもしれませんし、なかなか芽が出ず、どこかで折り合いをつけなければならないかもしれません。実際にやってみないと分からないことも多いと思います。ただ、時間だけは巻き戻せませんから、どう転んでも後悔のないように、覚悟をもって進んでみてはいかがでしょうか。
それではまた。