こんにちは。メディカル翻訳者&メディカルライターの山名文乃です。
業界誌で好んで特集されるトピックのひとつに「翻訳者になるための勉強法」があります。私も過寄稿していますので、よろしければご覧ください。
- 2018年版「メディカル翻訳・通訳 完全ガイドブック」イカロス出版
- 2016年版「医学・薬学の翻訳・通訳 完全ガイドブック」イカロス出版
尚、余談ですか、最新の2020年版には講師インタビューで登場しております(新版 メディカル翻訳・通訳 完全ガイドブック | 通訳翻訳WEB)。
さて、よく言われるように学問に王道はありません。王道はなくとも、最終的に力がつきさえすれば何をどの順番でやっても構わないと思います。
今回は、製薬・治験分野の翻訳者を目指す方向けの学習法のうち、アプリを中心に手軽に取り組めるものをご紹介したいと思います。ごく一部ですが、興味のある方はぜひ参考にしてください。
それではどうぞ!
臨床試験について学ぶには
ICR臨床研究入門(略称:ICRweb)
ログインしていただくとわかるように、膨大な数の講座が収録されています。しかも毎月のように増え続けています。これがすべて無料で受講できます。
すべて受講するのがベストですが、業務での必要に応じて選びながら学習をすすめてもよいと思います。
活用方法
パソコンとスマホの両方にインストールして、いつでもどこでも学習できる状態にしておきましょう。資料だけ先にダウンロードしておき、空き時間に読み進めておくのもいいですね。音声素材も充実しています。用途や好みに合わせて有効活用してみましょう。
有害事象の用語集(ほんの一部です!)
旧版ですが「有害事象共通用語規準 v4.0日本語訳JCOG版」 のアプリもありました。
有害事象共通用語規準とは、米国がん研究所が公表している「Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) 」の日本語版です。執筆時点での最新の情報は2019年9月5日発行の第5版を確認してください。
Cancer Therapy Evaluation Program(CTEP)
主にがん関連の有害事象用語だけではありますが、掲載されているエクセルファイルを加工すれば、自分用に串刺し検索アプリに取り込める用語集を作ることもできます。「有害事象って何?」「グレードって?」という方は、先ほどのICRwebで全体の流れをつかみつつ、資料をしっかり読んで勉強してください。また、MedDRAについてもう少し知りたい方は、日本語版のICH国際医薬用語集手引書などを探して読んでみてください。MedDRAは原則、年2回の改訂があります。
全般的な医学知識やトレンドをおさえたい方は
まずは何といっても『日経メディカル』だと思います。アプリ、Facebookページ、Twitterアカウント、メルマガなど、さまざまなルートで情報を取得できます。
日経メディカル
日経デジタルヘルス
医療機器関連のニュースもおさえておきたい方は『日経デジタルヘルス』も必読です。アプリはありませんが、Facebookページ、Twitterアカウント、メルマガ等でフォローできます。 techon.nikkeibp.co.jp
エムスリー
会員登録が必要ですが、最新のIT技術やゲノム解析などを織り交ぜた医療情報を得ることができます。Web講演会も充実しており、幅広い情報収集ができます。
医学英語の強化には
医学英語の学習素材として定評があるのは『New England Journal of Medicine (NEJM)』です。世界5大誌と言われる医学雑誌のなかでも、コンテンツの充実度では群を抜いています。定期購読しているプロ翻訳者も多いと聞きます。現時点で、年間購読はオンライン版のみで定価 26,070円、雑誌+オンライン版が定価 42,350円ですが、まだ専門も定まらず、そこまで投資できないという方もおられると思います。そこで、おすすめはこちら。
NEJM This Week(podcast)
活用方法
このpodcastはとても聞き取りやすい英語ですから、リスニングが苦手な方でも安心して取り組めます。ディクテーションやシャドーイングの素材としても最適です。
オーディオ素材のスクリプトは公開されていませんが、論文の抄録であればウェブ上で読むことができます。
抄録の和訳も公開されています。
→The New England Journal of Medicine(日本国内版)
先にpodcastで聞き取りをしてから抄録を読んでも、抄録を読んで内容をつかんでからpodcastを聞いてもよいでしょう。
英語版と和訳版を使えば独学でも翻訳演習ができます。対訳集作成も多くの学習者に好まれていますが、こういった「作業」は厳密には「翻訳の勉強」ではないため、注意が必要です。英語ネイティブの英訳者さん達も、毎日欠かさず英文を読んで気に入った表現をストックするなどの工夫をしています。ぜひ自分なりの活用方法を見つけてください。
その他の医学誌
NEJMで医学英語に慣れてきたら、The Lancet やJAMAなど、ほかの雑誌も読んでみるとよいでしょう。各誌の特徴なども分かってくると思います。
そもそも英文法があやしい人は
残念なことに、理系はとくに英文法が弱い人が目立ちます。心当たりのある方は受験英語に立ち返って復習してみましょう。
評判がよいのはこちらのアプリです。
スタディサプリ
ちなみに、文系で英文法や英文解釈があやしい人は、かなり厳しいです。少なくとも、メディカル分野では相当難しいと思います。焦らず、まずは基礎となる語学力を鍛えることをおすすめします。
背景知識を身につけたい方は
文系出身に多いのが「生物?化学?一切記憶にございません」という方です。
翻訳者に必要なスキルの一つとして「調査力」が挙がることがあります。ただ、だからといって原稿を貰ってからゼロから調べるやり方では、お客様が求めるレベルにまで仕上げるのは難しいでしょう。実務には締切があり、限られた時間の中でどこまでクオリティを高められるかが勝負です。知識があやふやなまま致命的な誤訳をして、お客様の信用を損っては元も子もありません。そもそも調査力とは、知識というベースがあって初めて正しく発揮されるものだと思います。
講義でも折に触れて話をしていますが、私は早い段階から背景知識を補強しておくことを強く、おすすめしています。理解できなければ、読めたことにはなりませんし、訳せないからです。
時間は作るものですから、スキマ時間など工夫をして、関連領域だけでも目を通してみてください。
手始めに、こちらなどいかがでしょう。
薬理
薬物動態
MR認定試験用の教材
医療情報担当者(MR)向けの教科書なども初心者には分かりやすいと言われています。
いかがでしょうか。ここまでくると、スラスラ理解できる方、少し思い出せばなんとか理解できそうな方、何を言っているのか全くイメージが湧かない方に分かれると思います。個々の状況に応じて次に取るべき方法が変わってきます。
何が何だかさっぱり...という方は、高校生物や生化学に戻って復習してみましょう。大学教養レベルの話が理解できるようになったら、次のステップに進むと良いと思います。
最後に
今回は、医薬翻訳に役立つ勉強法のうち、無料のスマホアプリを中心にご紹介しました。ですが言うまでもなく、これ「だけ」では差別化にはなりません。皆がやっていることは当たり前にした上で、他の人がやらないところまで積み上げるのがプロです。学習中からしっかり計画を立てて準備しておけば、早々に市場から淘汰されることなく翻訳者として息の長いキャリアを構築できるのではないでしょうか。
以上、参考になれば幸いです。